鮪に鰯

 

『生活の柄』っていう曲が好き。

 

ずっと、高田渡の曲だと思ってた。

 

歩き疲れた浮浪者が、隙間みつけて寝たんだけどねむれないよー!

この生活の柄が夏向きなのか、秋からは寒くてねむれないよー!

 

っていう単純な曲なんだけど、なんでこんなに長い間いろんな人が歌い続けているんだろう。

やっぱりメロディーなのかな。

耳に残るし、一緒に口ずさみたくなっちゃう。

あ〜るき〜(あ〜るき〜)疲れ〜ては〜(疲れ〜ては〜♪)

って。

 シンプルだし、うたいやすいー。

 

いろんな人のカバー聴き比べるのも面白い。いろんなアレンジの仕方があって。

私は大工哲弘さんていうシンガーのカバーがすごく好き!(”シンガー”って言っていいのか分からないけど。)

大工さんはそもそもこの曲を知るきっかけになった人。八重山民謡なんかを歌ってる人で独特の唄声してる。

大工さんVerには『たま』が参加してて、追っかけの部分をみんなで歌ってたりしてすごく賑やかになってる。

 

眠れないのです。って言ってるけど、言うほど大して気にしてないようなのんきな曲だなーって思った。

浮浪者だけどまぁいっかって、決まった寝床はないけどまぁいっかって、のーんびり毎日をただ生きてる人。

唯一の悩みは寝付けない事。揺り起こされたり、寒くて眠れない事。

他は何にも縛られずに、自由に生きてる。

歌詞をみながら聴きながら、そんな主人公を想像する。

 

他にも高田渡の『ごあいさつ』ってアルバムには、世の中の暗い部分をちょっと軽いジョークを交えて唄う曲たちがあって面白いんだー。

聴けば聴くほど味わいが出てくるというか。

メロディーも歌詞も、全然遠回しじゃないから、とっつきやすいのかなー。

高田さんのうたが魅力って言うのが一番だけど。

 

先日偶然知り合いにCDを借りた。 

貘-詩人・山之口貘をうたう

貘-詩人・山之口貘をうたう

 

 先に書いた大工さんが好きだーと言ったら貸してくれた。

 

山之口貘という詩人の詩を唄にしたものを集めたアルバム。

これ聴いてはじめて生活の柄の作詞が高田さんじゃない事知った。

 

『鮪の鰯』っていう曲があるんだけど、なんとなく流しで聴いてて面白い曲だなーって思ってた。

それも山之口さんだった。

高田さんの好きな詩人だから、すごく気になってる。

詩を読むのは、これからね。

 

ところで『鮪の鰯』の曲の事なんだけど、三拍子の、アコーディオンが後ろでなっているようなちょっとかわいらしい曲調で

鮪の刺身を食いたくなったと 人間みたいな事を女房が言った

女房はぷいと横に向いてしまったのだが

亭主も女房も互いに鮪なのであって

地球の上はみんな鮪なのだ

ってあって、

後半には”ビキニが〜”っていう亭主の言葉とそれにたいして女房が怒ってる感じの歌詞で、今までずーっと、女房はマグロだし、もう歳も若くない。たまに亭主がふざけて若いこのビキニの話したりして、女房にお叱りをくらう。そんなちょっとほんわかした生活の一部をさらっと唄ってるんだなーって思ってた。

”鮪”と”マグロ”をかけて、そんな事まで唄っちゃっていーんだなー、面白いなーとか思ってた。

 

でも全然違った。

 

マグロの刺身を食いたくなったと

人間みたいな事を女房が言った

言われてみるとついぼくも人間めいて

マグロの刺身を夢見かけるのだが

新でもよければ勝手に食えと

僕は腹立ちまぎれに言ったのだ

女房はぷいと横にむいてしまったのだが

亭主も女房も互いに鮪なのであって

地球の上はみんな鮪なのだ

鮪は原爆を憎み

水爆にはまた脅かされて

腹立ちまぎれに現代を生きているのだ

ある日ぼくは食膳をのぞいて

ビキニの灰をかぶっていると言った

女房は箸を逆さに持ちかえると

焦げた鰯のその頭をこづいて

火鉢の灰だとつぶやいたのだ

こんな歌詞。

”鮪”はほんとに魚の鮪で、”マグロ”の要素なんてこれっぽっちもなかった…!

”ビキニ”は若い女の子の水着の事じゃなくて、ビキニ環礁の”ビキニ”だった…!

不謹慎だー!って怒られそう。

思い込みとは怖い事ですね。

っていうかこの事実、ほんとこの記事書いてる最中に気づいたんだよ。

 

のんきなのは浮浪者でも山之口さんでもなく、私の方だった。